現役の消防士なんですが、仮眠室で全く眠れないんです。
非番日は睡眠不足で夕方まで爆睡してしまって、夜中は何度も目が覚めてしまいます。
やっぱりこのままだと寿命を縮めてしまうんでしょうか?ちょっと心配です。
今回はこういった悩みにお答えします。
この記事の想定読者
現役の消防士で睡眠障害に悩まされ非番日がしんどい人
想定している読者は、上記のとおりです。
この記事の信頼性
ボクは現役消防士時代、睡眠障害に悩まされ、専門外来を受診しました。睡眠障害の治療を継続しつつ睡眠に関わる様々な文献を読み、症状を改善することができましたので、改善案をシェアしたいと思います。
この記事では、 消防士が「睡眠障害」で寿命を縮める可能性があるということについて解説します。
先に結論
では始めますね。
消防士の睡眠障害:寿命を縮める消防署での仮眠
交代制勤務をしている消防職員の仮眠時間は、消防本部によって多少の違いがあるものの、概ね5時間程度でしょうか。
世間一般的に「消防士さんって毎晩出動があるんですよね?寝ているヒマはあるんですか?」っていうのがありますが、実はそうでもないですよね。
特に田舎の消防に行けば年間の火災件数なんて、70件程度ですので、勤務サイクルも考慮すると、1ヶ月に1度あるか、ないかくらいの出動頻度です。
ということは、ほとんどの当番日はぐっすり眠れるわけです…
とはなりません、残念ながら。
仮眠室って、最新鋭の個室を備えている消防署を除いて、ほとんどが大部屋。
ってことは消防署の仮眠室のリアルな状況が容易に想像できると思います。
イビキ、寝言、歯ぎしりの多重奏が延々と繰り広げられませんか?
ボクは何故かどこの消防署へ異動しても、イビキをかく署員の近くのベッドに割り当てられることが多かったので、毎当番まともに眠れることがありませんでした。
消防署の仮眠室でイビキをかくオヤジほど、次の日の起床後に「やっぱり消防署ではあんまり眠れねぇよな、そりゃあ仮眠だしな、ガハハ!」みたいなことを涼しい顔して言うもんです
そんな涼し気な爆心地の直近で仮眠していたボクは毎当番、戦場でビバークしているような感覚でした#消防士
— akira-san@消防士 (@akira_blogger) February 27, 2020
まあ、上記のように爆心地近くでの仮眠は圧倒的に不利となります。
何せ眠れない、いや、眠れなくてもいいからせめて仮眠させてくれ〜ってなるんですが、もうホントにダメ。
他人のイビキに合わせて呼吸していると突然「んごっ………ぐがぁ〜…」みたいに一瞬止まるもんだから、こっちまで窒息しそうになったり…
寝言で「敬礼!」なんて聞こえてくる日には、スタンガンで電気ショックを撃たれたような感覚になったり…
歯ぎしりが聞こえてくると「もう今日はオシマイだな…」なんて圧倒的な絶望感に苛まれてたり…
もう消防署の仮眠室ほど過酷な場所はないんじゃないかな、って感じです。
そもそも大前提として、指令がいつかかるか分からない、というプレッシャーがありますので、消防署の仮眠室って本当に眠れないんですよね。
消防士の睡眠障害:「睡眠負債」が寿命を短くしている
過去のボクを振り返りますと、毎日が圧倒的に睡眠不足でした。非番日はいつも頭がクラクラするし、帰宅してからウトウトすればあっという間に夕方。っで晩酌にはビールをがぶ飲みしてしまう。
いざ寝床に着くと、眠れるんですが夜中に何度も起きたり…
あとからお話しますが、ボクは睡眠障害を抱えてしまっていたんですね。不規則な当番日と不摂生な非番日の繰り返しが、体内時計を完全に狂わせてしまっていたということです。
ボクは何年もこんな生活を送っていましたので、間違いなく身体に負担をかけて寿命を縮めていたと思います。
消防士の睡眠障害:寿命を縮める「睡眠負債」って何?
スタンフォード大学睡眠研究所の西野精治教授のWEBサイトブレインスリープ(https://brain-sleep.com/)に「睡眠負債」について詳しく紹介されています。
24時間社会の到来によって、人類はいま睡眠の危機に瀕しています。
とりわけ日本人はOECD加盟国の中で睡眠時間が最も短いことが知られており、かつそれが年々短くなる傾向にあります。
近年問題視される言葉になった「睡眠負債」は、日々の睡眠時間の短縮が本人の気付かないうちに蓄積され、気が付けば借金のように首が回らなくなってしまうような状態のことを言います。
それにより、日中の集中力低下、精神状態の悪化、生活習慣病を含む様々な疾病リスクの増大、などの多くの悪影響を及ぼすことが分かっています。
また、歴史上の巨大な人的災害の中にも睡眠負債、睡眠不足による不注意で引き起こされたものが数多く含まれていることが指摘されています。
日本人の睡眠時間は世界的には最も短くて、多くの人が「睡眠負債」「睡眠不足」を抱えていて病気のリスクを抱えているってことが書かれています。
これはまさに24時間勤務をしている消防職員にとっても例外ではありませんよね。
当番中は仮眠と言っても、いつ指令が流れるか分からない…という緊張感や、他の隊員のイビキや寝言でほとんど眠れないし、もちろん夜中に出動があれば本来睡眠を摂るべき時間に身体を酷使して現場活動をします。
っで次の日の非番は寝不足のままフラフラの状態で火災調査をやって、帰宅後は泥のように寝てしまう…
控え目に考えても、かなりヤバイ生活サイクルです。
睡眠障害を抱えたていた現役消防士時代
ボクは現職時代に睡眠障害に悩まされて専門の外来を受診したことがあります。
「仮眠時間中はもうぜんぜん眠れないんです。大げさじゃなくて、きっと5分くらいしか眠っていないかもしれません。っで、家でも実は夜中に何度も目覚めてしまうんですよ…」ということを主治医に言うと、色々とボクの生活習慣の聞き取りが始まりました。
ボクの現職時代の負の睡眠ループは以下のような感じでした。
仮眠室で眠れない
↓
寝不足で帰宅
↓
帰宅して昼食後に4、5時間爆睡
↓
気が付けば夕方
↓
夜に目がぱっちり
↓
テレビを見ながら夕食&酒を飲み過ぎる
↓
夜中に眠れない
上記のような感じで、今から思えば圧倒的に極悪な非番、週休日を送っていました。
「じゃあ、とりあえず生活習慣の改善と認知行動療法というやつに取り組んでもらいますね。それでも改善できなければ眠剤を使いましょう」と言われて、2週間ほど睡眠日誌を記録しつつ、規則正しい生活を送るようにしました。
結論的には、半年間その治療を継続した結果、夜中に何度も起きるという症状が徐々に改善されました。
睡眠障害を改善するために、主治医から提案された生活サイクルは以下のような感じでした。
消防署では出動がなければ極力22時までに仮眠室へ向かう
↓
非番日の昼寝は30分以内に留める
↓
夕食は18時までに摂る(缶ビールは2本まで)
↓
眠る直前のスマホとテレビを辞める
↓
寝床に入る時間は必ず21時
↓
起床は必ず6時
上記のようなサイクルを繰り返しました。
主治医は、「眠る時には、とにかくリ身体と心をリラックスさせることが大切なんですよ。入浴するタイミングや、自分に合った寝具選びも大切ですし、アロマオイルを利用するのも効果的ですよ~」と言っておられました。
快眠するためにはとにかく「自分にあった方法」を見つけることが大切なんですね。
消防士の睡眠障害:「睡眠負債」で寿命を縮めないための㊙テクニック
実は「スタンフォード式最高の睡眠」の中に、睡眠不足で寿命を縮めないための正しい睡眠の知識が盛り込まれています。
これは24時間勤務を長年繰り返す消防職員にとっては必要不可欠な知識です。
最も注目すべきポイントは以下の2つです。
消防士の仮眠の質を高める「90分」というキーワード
当番日にまとまった仮眠ができるかどうかなんてはっきり言って分かりません。出動があれば、仮眠時間は削られるし、他の署員のイビキが酷ければ全く眠れませんからね。
そもそも論ですが、消防職員が「まとまった仮眠時間を確保しよう」なんていうのは非現実的です。なので当番中の仮眠に際して考えるべきことは、いかに「睡眠負債」を背負い込まないようにするか、ってことです。
「スタンフォード式最高の睡眠」にはその打開策が書かれています。
ネタバレになるといけませんので、ざっくりとしかお話しできませんが、睡眠の「質」を高めることによって「睡眠負債」を最小限にとどめることができるということです。
最も大切なのが入眠後に訪れる最初の90分
最初の深いノンレム睡眠を90分程度確保できれば、睡眠の重要なミッションをほとんどすべて確保できるのです。
この90分を私は「黄金の90分」と呼んでいます。
https://techblitz.com/stanford-nishino-suimin/
このタイミングでうまく仮眠できれば、睡眠負債を最小限に留めることが可能です。
「夜22時から夜中の2時が睡眠のゴールデンタイム」という一般論がありますが、西野精治教授はそのことを否定されております。
つまり時間に関わらず規則正しい生活リズムを作ったうえで、「眠気が訪れた時に入眠する」ってことがポイントなんですね。
入浴を済ませるのは入眠前の90分
入浴のタイミングは重要です。
40度のお風呂に15分入ると、身体の深部体温が0.5度くらい上がり、90分かけてもとの体温まで下がります。
ですから入浴してから90分以内に寝ようとすると、体温が高くて寝つきにくくなります。
入浴後、すぐに眠る場合はシャワーで済ませたり、あまり長湯しないほうがいいでしょう。
(中略)
シャワーでも皮膚の血管は拡張し、熱放散は起こるので、効果はあります。
ただ、じっくり入浴して体の内部の温度を上げる効果に比べれば、効果は小さくなります。
お風呂に浸かれない場合、足湯でもいいと思いますよ。
短時間で足の血管を拡張でき、熱放散は起こしやすくできます。
https://techblitz.com/stanford-nishino-suimin/
入浴で身体の深部体温を上げておき、風呂上がりに深部体温が下がるタイミングで仮眠室に入るとスッと眠れるってことです。
またシャワーや足湯でも一定の効果はあるということですので、じっくり風呂に入っている暇がない当番日でも大丈夫です。
消防士にとっての理想的な仮眠は「質の高さ」
ボクは「スタンフォード式最高の睡眠」読む前から、実は自分なりの「仮眠ルーティーン」を作っていました。
この「ルーティン」については西野精治教授も言及されています。
(前略)
不安や緊張を取り除き、自分がリラックスしているかどうかも大事です。
そのために眠る準備を整える「ポジティブルーティン」を作るのはいいと思います。
万人に効果があるかはわからなくても、生理的な裏付けがあり自分にとって効果のあるものを、自分の習慣にしていくのです。
睡眠は個人差がありますから、他人にとっての最適解は自分にとっての最適解ではないこともあります。
自分の最適解を見つけていくべきでしょう。
https://techblitz.com/stanford-nishino-suimin/
ボクの「仮眠ルーティーン」は以前以下のようにツイートしました。
消防署の真冬の当番日にまぁまぁ本気で仮眠するためのテクニック
☑️最速で仮眠室に突入する
☑️レンジでゆたぽん
☑️アロマオイルを嗅ぐ
☑️マイ抱き枕
☑️片方だけ耳栓そこそこ眠りつつ、それでいて指令を聞き逃さないという、ちょっと欲張りで、絶妙なバランスが取れたナイショの方法です#消防士
— akira-san@消防士 (@akira_blogger) February 27, 2020
このルーティーンを決めたのは、ちょうど睡眠障害の治療をしていた時期です。当時の主治医に提案されてからですかね。色々と試しながら自分に合った仮眠のルーティーンを模索していました。っでこの形ができたわけです。
あたり前のことですが消防署で熟睡することは超危険です。指令を聞き逃しかねないですから。
まあ、そもそも「いつ指令がかかるか分からない」っていうプレッシャーが深層心理にありますので、本気で熟睡できる人なんていませんよね。
ただし過去のボクのように、指令に対する過度の緊張感や、他の署員のイビキや寝言に対するストレスから一睡もできないようでは、身体を休ませることができません。
なので難しいんですが、そこそこ質の高い仮眠をしつつ、指令を聞き逃さないってことが必要なんですね。
自分の身体のためには、色々と試しながらベストな仮眠方法を見つけるしかありませんよね。
消防士は「睡眠障害」で寿命を縮めるのまとめ
今回は以下の内容についてお話ししてきました。
- 消防士には出動がなくても仮眠できない切実な事情がある
- 消防士は「睡眠負債」で寿命を短くしている可能性がある
- ボクが現役時代に睡眠障害を抱え治療していたこと
- 消防士の仮眠の質を高める「90分」というキーワード
- 消防士にとっての理想的な仮眠は「質の高さ」
上記のことをしっかりと理解しつつ、健康管理にはぜひ十分な労力を割いて欲しいと思います。
この記事でご紹介してきました「スタンフォード式最高の睡眠」を読んだ方がいい理由は以下のとおりです。
正直なところ、日本の消防組織では職員の「睡眠対策」がまだまだできていないのが現状です。
消防士は眠っている暇がないのが当たり前だよ、とか、何をしに消防署に来てるんだよ、っていうのはもうホントに時代遅れ
米軍は何十年も前から仮眠トレーニングを取り入れているんですから…
定年退職年齢が引き上げられてるので、健康維持のために消防組織も仮眠対策をすればいいのにな〜#消防士
— akira-san@消防士 (@akira_blogger) February 28, 2020
これはオフレコですが、現役時代、東京消防庁でも田舎消防でも「寝ない美学」、「無駄に起きている=頑張っている」というような風土が根付いていました。
近年はこのような悪い風土が少しずつ改善されているようですが、消防士として長い人生を送るのなら「睡眠」の重要性について今一度考え直して欲しいと思います。
「スタンフォード式最高の睡眠」の中でも解説されているとおり、数十年間「睡眠負債」を蓄積させることは、間違いなく寿命を縮めることになりますからね。
そのためにもぜひ正しい知識を学んでください。
今回は以上となります。