【実体験】消防士としての心構えは「無」になること【綺麗ごとは無しです】

消防士として働く上での「心構え」について教えて欲しいです。

「愛」だとか「勇気」だとか、そういう理想論的なやつではなくて、消防署での生活や出動したときに「気を付けておいた方がいいよ」ってやつを知りたいです。

 

今回はこういった疑問にお答えします。

 

 この記事の想定読者

 

消防士としての「心構え」、「気を付けるべきこと」を知りたい人

 

想定している読者は、上記のとおりです。

 

 この記事の信頼性

 

ボクは消防士として17年間働きましたので、決して綺麗ごとでは済まされない「心構え」を理解しています。

消防士として働く上で、押さえておきたいポイントがいくつかありますのでこの記事でシェアします。

 

この記事では、「消防士としてのリアルな心構え」について解説します。

 

 先に結論

 

消防士の世界は厳しいのが当たり前ですが、それ以上に「無」にならないと務まらない

 

です。

 

では始めます。

 

消防士としての心構え①:現場活動で「無」になる必要性

 

現場活動でいちいち一喜一憂していられない

 

消防士って「火を消すプロだから、火事の現場に遭遇してもどうってことないんですよね?」って思われがちですが実はそうではないんです。

 

所詮人間ですからね、火事現場に到着すれば、それなりに感情は高ぶります。

 

じゃあ、なぜそんな精神状態で、ホースを延ばして、家の中に入り火を消すことができるのかと言いますと、うまく感情をコントロールしているからなんです。

 

現場活動ではとにかくメンタルコントロール

 

たとえば火災現場に到着して「10階建てマンションの2階のベランダから黒煙が噴き出していて、一人の男性が手を振って叫んでいる」という状況。

 

消防の世界で言う「10階建て共同住宅2階から黒煙、手振り要求1名有り」っていう状況です。絵にかいたような火事の状況ですが、意外とないんですよ、こんな現場。

 

ボクが消防生活17年間送った中で、記憶にあるのはたったの4回です。いずれの現場も三連梯を伸ばして、要救助者の方を介添えしながら降りてきたんですが、まあ、本当に少ない…

 

だから、ぶっちゃけ現場に到着した消防隊員の心の中はどんな感じかと言いますと、「お…手振り要求有り…三連梯子…よ、よし、あ、あそこならいけそうかな」というような、どっちかと言えば「え、マジ?」みたいな感じなんです。いや、表情には出しませんよ。

 

じゃあ、消防士って結局テンパりながら現場活動しているんですか?それなら素人と同じじゃない?

 

もちろん正直、消防士になって1年目の隊員なんて、訓練も未熟、経験値もない、ましてやメンタルコントロールなんてまともにできないから慌てる、慌てる…ただし訓練を積んで、現場の経験値も上がってくると話は別です。

 

言葉ではなかなか言い表しにくいんですが、言うなれば、沸騰しそうな鍋を、蓋で上から抑えているような感覚です。高ぶりそうな感情をうまく抑えることができるようになります。

 

現場活動をする上でいちいち感情を高ぶらしたりすると、頭に血が上って判断力が失われます。視野も狭くなってそれこそ、ホースを踏んで捻挫したり、道路脇の溝にはまったり、階段踏み外したり…

 

ヒヤっとすることが多い、訓練でできても現場でできない、いつも失敗する…これらはすべてメンタルコントロールができていない証拠です。

 

消防士としての心構え②:消防署生活で「無」になる必要性

 

消防署での生活は基本的には集団行動

 

消防署での生活はもちろん24時間勤務で、朝8時30分の勤務交代後、出場訓練、車両点検、体力錬成、ミーティング、訓練…ずっと他の署員と一緒に行動します。

 

これはもちろん消防学校で、集団生活や集団行動の基本を植え付けられなすので、まあそれなりに順応はしていけます。

 

しかしこれが5年も6年も、それこそ定年退職を目指すのなら35年以上も続くわけです。

 

ボクの場合は正直、消防士になる前から集団行動は苦手でしたので、わりと苦痛でした。

 

自分が事務処理をしようと思っていても、先輩や上司に突然「業務出動するぞ」とか「訓練するから車庫に集合!」となると行かなきゃしょうがない…

 

自分のペースで仕事できない、というのがストレスでなりませんでした。

 

なのでボクは、この手のストレスをコントロールするめに「無」になるということを覚えました。

 

語弊を恐れずに言うのなら、消防署での生活はある程度「先輩のいいなりに」になっておけば、それなりに丸く事が進むわけです。

 

「ちょっと手持ちの仕事しますんで…」なんていちいち言っていると、先輩も人間ですので「 アイツ、結構口答えするヤツだな…」と、だんだん角を立てきますし、そういったことが積み重なれば風当りも強くなり、確実に不利な状況が発生します。

 

もちろんこれはボクの経験論でして、そうでない消防組織もたくさんあります。けど、組織や社会で生きていく上では、ある程度「長いものに巻かれておいた」方がうまくいくことが多いですよ、ってことです。

 

なのでここで「無」になっておけば、トータル的には仕事がスムーズにいくわけです。

 

消防署での生活はわりと理不尽がつきまとう

 

とりわけ消防士になりたての頃は、資器材やら地水利やら手技やら、覚えることが無限なんですが、それ以上に雑用が圧倒的にに多いんです。言うなれば若手消防士は「木っ端使い」でして、消防には根強く「雑用してナンボ」の世界環があるわけです。

 

コピー用紙が無くなったから入れておいてくれ

トイレのドア音がなるからちょっと見ておいてくれ

署長室の蛍光灯が切れてるそ

 

こんなのザラでして、「自分でやってくれよ…こっちは先輩に頼まれている仕事があって忙しいんだよ」という気持ちになりますし、もちろんボク若手の時はかなりストレスに感じていました、

 

けど、ここで一瞬でも「ムッ」とした表情を見せたり、取り掛かりが遅くなると完全に命取りとなります。

 

とりわけ、昭和世代の上司なんかは、「今の若いヤツらは…」ってブツブツいいながら、自分はロクに仕事もせずに、あれやこれやとキラーパスをしてきます。

 

スイマセン、昭和世代の方をひとくくりにするのもどうかと思いますが、中には本当にこの手の「置きもの上司」がいるんですよ。

 

「はいはい、分かりました、やっときますよ」くらいのスタンスでいないとメンタル持ちませんし、あなたの「大人」な行動を敏感な先輩はきっと見てくれていますよ。

 

消防士としての心え③:「無」になってこそ一流の消防職員

 

現場活動で「無」になれるとすべてがつながる

 

先ほど、現場活動では「無」になるためにメンタルコントロールが大切です、というお話をしましたが、このレベルまできてようやく、日々の訓練で得た技術や勉強してきた知識を引き出せる状態になります。

 

たとえば現場到着して、先ほどの例と同じように「10階建てマンションの2階のベランダから黒煙が噴き出していて、一人の男性が手を振って叫んでいる」という状況。

 

噴き出す黒煙と、手を振る要救助者の方に気を取られて、車止めを忘れる、消火栓の水利確認をする前にホースを準備してしまう、破壊器具を持っていくのを忘れる…こんなことをしていると、現場活動のリズムも狂うし、後手後手の活動になって、後の祭りです。

 

自分の興奮状態を抑えられないようでは、いくら訓練で完璧にできても、いくら知識を蓄えてウンチクを述べても、現場活動で活かせることができないと、机上の空論になり兼ねません。

 

逆に、メンタルコントロールをして「無」になることができれば、思考能力も高まりますし、視界もクリアになります。危険な情報を見逃すことなく察知できるでしょうし、現場活動の流れを詠み込むことができるようになります。

 

消防署生活で「無」になれると理不尽ををスルーできるようになる

 

これも先ほど、「消防署での生活はわりと理不尽がつきまとう」で解説しましたとおり、消防署ではホントに理不尽なことを言う上司や先輩がいます。

 

結論的には、この理不尽をうまくスルーしていかないと、消防職員として生きていくのは難しいと言えます。

 

もちろん、所属の人間関係にもよりますし、理不尽な思いを受けずに働き続ける消防士も中にはいるかもしれません。しかし、そもそも消防の世界は「階級制と上下関係」が絶対主義でして、現場活動では活きてくるこの関係性が、そのまま消防署での生活にもシフトされてしまっています。

 

令和に入ったこのご時世でも未だに、全国各地の消防本部でパワハラが蔓延しやすく、途絶えないのはそのためです。今の40代や50代の先輩や上司は、そもそもパワハラという概念がなかった時代に消防士として働き出していますよね。

 

「上下関係が厳しいのは当たり前だし、理不尽なこと言われても仕方ないのかな…」とおぼろげに感じながら、数十年間消防生活を送ってきた人たちばかり。

 

そういう人たちの深層心理には、「若手が理不尽な思いをするのは多少仕方のないことだ」という「闇」が存在しています。

 

なので、そんな人たちを相手に真っ向勝負したところで、勝ち目もないですし、そもそも議論する余地もありません。だって「理不尽=いけないこと」を理解していない人たちですからね。

 

だからたとえば、

 

風呂の湯がヌルい!湯加減も分からないのか?

コメが硬い!オマエ何年下っ端やってんだ!

食堂の布巾はもう少し湿らせておけよ!ぜんぜんだな!

 

こんなこと言われたって

 

今度はもうちょっと熱めの湯を張っておくか…

コメの水の量は今度は多い目に、だな…

布巾は軽く濡らしておくといいのか…

 

と、その事実だけは真摯に受け取りつつ、心の中では「こんなことで吠えるって…」くらい思っておいて大丈夫ですよ、実際そんな言い方してくる輩は人間的に未熟な人達ですからね、いちいち反応しなくていいですよ。

 

消防士としての心構え まとめ:とにかく「無」になれ

 

消防士としての心構えのポイントは1つ、「無」になる、ということでした。

 

  • 現場活動でのメンタルコントロールをする力
  • 普段の消防署生活での「理不尽」をスルーしていく力

 

上記の2点は消防の世界で生きていくためには必須項目でして、この能力をいち早く身に付けるようにしてください。

 

ただ何度もお話していますように、消防の世界ってやっぱり理不尽も多いですし、現場活動も過酷で精神的にはきついです。しかも消防組織には、「理想とかけ離れた世界観」が蔓延していますので、そこを乗り越えていく精神力も必要となってきます。

 

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上記の記事内でもお話していますが、消防組織の「理想とかけ離れた世界観」に耐えられないのなら、辞めるという選択肢もありかな、と思います。

 

ただし、辞めたい、辞めたい、とブツブツ他言するのはNGでして、あくまでも現職のうちは消防職員として市民のために全力を尽くしてください。

 

最低でも現職のうちは、消防人としての努力を惜しんではいけませんよ。

 

今回は以上となります。